勇者が何人目か、もはや誰も数えていない。
王も、民も、勇者自身でさえ。
ただ、今日もまた一人の勇者が選ばれる。
俺の名はカイト。
剣術の免許皆伝を授かり、数多の修練を積んできた。
かつての勇者たちとは違う。
俺ならば必ず魔王を討てるはずだ。
簡略化された式を終え、旅は始まった。
道中の村では魔物退治をしては歓待を受ける。
だが、どの村も深刻な食糧不足にあえいでいた。
謝礼に分けてもらえるのは、わずかな穀物ばかり。
仕方なく、倒した魔物の肉を食うこともあった。
癖のある味だったが、腹を満たすには十分だった。
旅は順調に進んでいった。
だが、ある日から様子が変わり始める。
魔物の中に、奇妙に人の形をしたものが増えてきたのだ。
つがいのように行動し、互いを庇い合う。
まるで人間のようだと不快に感じた。
人間をあれだけ殺しておいて、人間のような動きをするこの魔物に。
俺は憎悪を抱きながら処理していった。
食料が尽きかけていたため、仕方なくつがいに守られていた小さな魔物を食べた。
不思議と柔らかく、これまでの魔物の肉よりも食べやすかった。
翌日訪れた村は、魔物どもに占拠されていた。
村の入り口に立つ者を斬り捨てると、内部から一斉に武器を手にした魔物たちが押し寄せてきた。
甲高い鳴き声をあげながら。
耳障りで、不快な声だった。
俺は迷わず剣を振るった。
次々と倒れ伏す魔物。
それでまた一つ、人々は救われた。
そのはずだった。
その村の奥に、絶世の美女が囚われていた。
「大丈夫か、助けに来た」
俺が声をかけると、女は冷笑を浮かべた。
「あなたって、本当に愚か者ね」
次の瞬間、光が弾け、景色が反転した。
血に塗れた大地に横たわるのは、泣き叫ぶ人間たち。
俺が倒したのは村人だった。
食らった肉の正体もまた、人間のもの。
手の中の剣が、重くのしかかる。
現実を直視した瞬間、俺の膝は崩れ落ちた。
口の中に、あのとき食べた肉の味が蘇る。
あれは夫婦に守られていた子供の肉だったのだろう。
俺は剣を、自らの胸に突き立てた。